筋肉痛。
誰でも経験したことがあると思います。
スポーツをした翌日や翌々日など、筋肉を使いすぎたあとに痛みが出るあれです。
この痛みのメカニズムを研究すると、慢性的な痛みの解明にもつながるのではないかと考えて、私なりの視点から考察していこうと思います。
筋肉痛のメカニズムは科学的にもいくつかの説があり、結局のところまだはっきりとしたメカニズムは解明されていないのが現状です。
一般的には「筋疲労」説と「筋損傷」説の2つで説明されることが多いようです。
「筋疲労説」では
運動することで出来る疲労物質「乳酸」が、筋肉中の毛細血管に長時間残存し、これが筋肉への酸素供給を阻害して鈍痛を引き起こすという説。
しかしこの説は、血液中の乳酸値が運動後比較的速やかに下がってしまうことなどの矛盾が指摘されています。
「筋損傷説」では、
筋線維とその周りの結合組織の損傷が、回復過程において炎症を起こし、その時発生した発痛物質が筋膜を刺激するというもの。
現在はこちらの説の方が有力なようですが、実際にどのようなメカニズムで炎症を起こしているのか、詳しいことはわかっていないようです。
こういった筋肉痛の生理的メカニズムについて、いくら考えても結局現段階では答えが出ないので、「筋肉は使いすぎれば痛みが出るものだ」を前提として、その痛みの違いについて考えていこうと思います。
一般的な筋肉痛(健康的な痛み)と慢性的な筋肉の痛み(病的な痛み)を比べてみようと思います。
以降、一般的な筋肉痛を「筋肉痛」とし慢性的な筋肉の痛みを「慢性痛」と書きます。
筋肉痛と慢性痛。
どちらも痛いのですが、痛みの感じ方は違うように思います。
私の主観でそれぞれの痛みの特徴を書くと、
筋肉痛の場合は
・痛む場所がわりとハッキリしている。
・痛む場所をさわると痛みが出る。
・動かしたり、力を入れると痛むが、じっと安静にしていれば痛まない。
・痛みはわりと鮮明で、重く鈍い痛みとは違う。
・日にちがたつにつれ確実に痛みが減少する。
・痛むが動かすことは出来る。
・筋肉が痛いのだと自覚できる。
・痛みが表面に感じられることが多い。
・それほど不安を招く痛みではない。
慢性痛の場合は
・痛む場所がハッキリしない場合が多い。
・痛む場所をさわっても痛みがない場合がある。
・動かしたり力を入れても痛むが、じっと安静にしていても痛む場合がある。
・鈍く重い痛みの場合が多い。
・日にちがたっても痛みが変わらずあまり変化しない。
・痛みのため動かすことが出来ない場合が多い。
・筋肉だけでなく関節が痛いような、あるいは神経が痛むように感じる場合がある。
・関節がズレたような感じがすると言うかたもいる。
・痛みが表面より奥の方に感じる場合が多い。
・非常に不安を招きやすい痛みである。
実際、色々な痛みが混在しているわけで、上に書いた特徴が当てはまらないケースもありますが、大体はこんな感じで特徴に違いがあるように思います。
では何故こういった感じ方に違いが出るのかを考えます。
筋肉は表面から深部にかけて何層にも重なっています。
そこで、痛むのが表層か深層かの違いで、痛みの感じ方が違うと仮定します。筋肉痛の場合、痛む場所を認識しやすく、痛み自体も表面に感じる傾向が多いようなので、単純に表層の筋肉が痛みを出していると考えましょう。
慢性痛の場合は逆に、痛む場所がハッキリしない場合や、痛みを体の奥の方に感じる場合が多いので、深層の筋肉が痛みを出しているのだと考えます。
ここで表層と深層の筋肉の働きの違いについて考えます。
表層の筋肉は・・
大きくて、1つ以上の関節をまたいで付着しているものが多く、主な働きは体の動きを起こすこと。
グローバル筋という言い方もされ、瞬発力に優れている傾向がある。
つまりこの筋肉が痛みを出した場合、わりと表層にあるので痛みを鮮明に感じやすく、また動かしていないときは力を抜くことが出来るので痛みは出にくいと考えることが出来ます。
また、関節を安定化させる為にはあまり機能していないため、痛みが出たからといって関節機能を狂わす要因にはなりにくく、その為痛みがあっても関節を動かすことは出来るようです。
この筋肉は、走ったりスポーツで鍛えられたり、外からの衝撃を直接受けたりする部分であるため、痛みを乗り越え超回復(以前より強くなる)する能力に優れているのではないのかと考えています。
深層の筋肉は・・
1つの関節のみをまたいでいることが多く、その役割は関節機能の構築と安定化、固有受容器(感覚器、センサー)としての役割を持っていると考えられています。
ローカル筋という言い方もされ、持久力に優れている傾向にあります。
この筋肉が痛みを出すと、深層にあることが多いため、痛む場所が特定しにくく、また関節の機能維持に大きくかかわり常時働き続けているため、動作時だけでなく安静時にも痛みを感じる場合があります。
関節機能の異常や不安定化を招きやすく、明確な可動域の減少や激しい動作痛を引き起こす可能性も高いでしょう。
もしかすると、深層の筋は表層の筋が筋肉痛を繰り返すことで発達していく過程とは別の発達の仕方をしているのかもしれません。
例えば、筋肉痛を伴わずに発達出来るとか。
もしそうだとすれば、逆に一旦痛みが出てしまうとそこからの回復能力は低いと言う可能性もあるかも知れません。
もしこの仮説が正しければ、深層筋の痛みは慢性化しやすく、一旦痛めるとなかなか治りきらず、一時的に治まったように見えても実は治りきっておらず、何かの拍子にまた痛みを発生させてしまうのかもしれません。
上で書いたような(仮設ではありますが)ローカル筋(深層筋)系の問題を抱えている方は多いように思います。
ローカル筋の機能異常によって関節機能が低下すると、別の何かで関節を安定化しなくてはならなくなります。
その為に使われるのは恐らくグローバル筋(表層筋)でしょう。
本来は大きな動きを起こすことを主目的としているグローバル筋にもかかわらず、関節の安定化にも駆り出される事になり、その結果、常に緊張を続けなければならなくなります。
よく見られる本人は力を抜いているつもりでも、表面の筋肉を触るとガチガチに力が入ったようになっている状態です。それにグローバル筋がいくら頑張っても、複数の関節にまたがる大きな筋肉ですので、関節一つ一つを正確に安定させ関節機能を構築することは出来ません。
そしてグローバル筋は限界を超えて力を出し続けることになり、極度の疲労、循環不全、継続した微小損傷などを招き、痛みが出始め、不安定なまま動かされる関節は変形や損傷を招くことになるでしょう。
ローカル筋に異常があっても、そのローカル筋が関わっている関節を動かさないような、かばった体の使い方を覚えてしまえば、グローバル筋の持久力を超えない範囲でなら何とか症状が出ないように吸収できるかもしれません。
しかしクローバル筋が限界を越えてしまうと、グローバル筋にも痛みは出るでしょうが、ローカル筋をかばう事も出来なくなり、庇われなくなったローカル筋にも痛みが発生してくるでしょう。
筋肉の痛みを「筋肉痛」と「慢性痛」に分けて考えてきましたが、痛みの起きているメカニズムは実は一緒で、ただ起きた場所(グローバル筋で起きたのかローカル筋で起きたのか)の違いによて、ただの「筋肉痛」でお終わるか、治りにくい「慢性痛」になるのか分かれるのではないかと言う仮説を立ててみました。
世の中に関節に焦点を当てた手技の理論が多いのは、関節にアプローチすることで結果的にローカル筋の活性を促すことにつながっているのかも知れません。
鍼治療もローカル筋に直接鍼があたることで同様の効果を得る事が出来るのかも。
鍼治療のメカニズムについては、私の中でまだまだ不明な点も多く、もう少し別の観点から考える必要もあると思うので、それはまた別の機会に書こうと思います。
グローバル筋とローカル筋。
その区別は筋肉の名称ごとにはっきりつくものではなく、あいまいな部分もあります。
ただ施術を行う際は、グローバル筋の痛みに目が行きがちになりますが、よりローカル筋に近い部分(ローカル筋の特徴を備えた部分)を見つけ、操作することで、長期にわたる愁訴を改善させる近道になるかもしれません。
注意!ここに描いてきたことはあくまで仮説であって、もしこう考えればそうなるなあと言う思考のゲームみたいなものです。
掲載当時いろいろ考えたことの記録として残していますが、現在は考え方も変わっています。
2014.10(2021.09更正)