体の中心について考えてみようと思います。
いったいどこが中心なのか?
どこを中心に体を操るのが良いのか?
そもそも中心なんてあるのか?
昔から臍下丹田(せいかたんでん)が重要なポイントだと言われています。
臍下丹田とは臍(へそ)のすぐ下の下腹部の事で、詳細な場所については諸説ありますが、丹田が体の中心です・・となると話が終わってしまうので、他の部位についても考えてみようと思います。
ダンスの世界ではどう言われているのでしょう?
サイトを調べてみると、「みぞおち」と書いてあるホームページがありました。
丹田とみぞおち。
明らかに場所が違います。
いろんな考えがあるようですね。
私が稽古している合気道では「腹」や「腰」と言ったりしますが、位置としては「みぞおち」ではないようです。
どっちかと言うと丹田の位置と近いようです。
ダンスと言えば、先日マイケルジャクソンのDVD「THIS IS IT」を見ました。
マイケルの動きは一緒に出ている他のダンサーとは随分印象が違いました。
他のダンサーはとても躍動的な印象でした。
マイケルの印象はと言うと、なんだか少し宙に浮いているような、まるで重さが無いような印象です。
あえて体のどこかに中心があるとして動きを観察すると、マイケルは中心が胸の上の方にある印象です。
他のダンサーの中心は腰の下あたり(丹田でしょうか)にある印象です。
下の図が私が感じたマイケルの動きのイメージです(▲が動きの中心)。
次の図が他のダンサーの動きのイメージです。(丹田中心)
(この図は映像を見て感じた印象をあえて中心の位置の違いに当てはめてモデル化したものなので、実際の動きを正確に表現出来ていません。)
中心の位置の違いで動きのイメージが大きく変わります。
中心が丹田にあったほうが頭部が大きく動くので、躍動的に見えるのでしょう。
中心を上にすればするほどマイケルのように頭部が大きく動かなくなるので、上からつるされてるような無重力感が生まれるのかも知れません。
どっちの中心の位置が良いと考えるか?
良し悪しは無いと思います。
動きの印象が変わるだけでしょう。
人前で演じる人たちなら、顔が動き回るのは自分の印象を薄くしてしまう事になるでしょうから、中心は上の方にしておくのが良いのかも知れません。
さてここで根本的な疑問ですが、彼らの体の中心の位置が本当に違うのでしょうか?
イヤ、そもそも中心自体あるのでしょうか?
上の二つの図を見ると、ちょっと変なところに気が付くと思います。
中心の位置の違いはありますがどっちの動きもなんだか地面に対して不安定そうに見えませんか?
そうなんです。
体のどこかの位置に本当に動きの中心を作ってしまうと、その点を中心に体は回転してしまうんです。
車輪や球体がその場で回転するように。
人の身体でそれをやると、動いた瞬間「スッてんコロリ」とまでは言いませんが、不安定な転ぶような動きになっちゃいます。
中心を作るとはそう言う事なんですね。
つるつるの床の上で滑って転ぶ時や、柔道で相手に完璧に投げられた時などには中心が出来てしいます。
つまり安定して地面に立ち続けるには、体の何処にも中心を作ってはいけないのだと言う事です。
ここで先ほど「車輪や球体がその場で回転するように」と書いたのが重要なキーワードになります。
床の上で車輪や球体を回転させると、その場では回転せずに転がって移動しますよね。
これこそ安定した体の動かし方のお手本だと思います。
一見中心があるように見えます。
ですがこの中心は丸や球の形を維持する中心ではあるけれど、動きの中心にはなっていません。
形の中心を通る垂直なラインが地面に対し平行に移動しているのが分かると思います。
車輪や球体は形が変化しないので「形の中心」が移動しているのが分かりやすいと思います。
ヒトの場合は形が変化するので、形を保つ中心も必要ありません。
これが動くと言うことです。
さて、それじゃあマイケルと他のダンサーの動きの違いをもう一度考えてみましょう。
印象の違いを中心の位置ではなく体の移動とバランスで考えてみたいと思います。
下の図は、歩く時の身体の動きを二種類に分けたものです。
図Aは、まっすぐ立っている状態なので、体の真ん中を支えにしてバランスを取ています。
歩くときには、左右に支えが移動するのですが、図BとCでは支えを移動させる方法に違いがあります。
図Bは右足を跳ね上げる事によって左へ倒れる動きを作っています。
その結果、支えも左脚へ移動するのですが、動きとしてはジャンプしているのと同じ動作なので、わずかの間ですが支えていない時間が作られます。
でも、頭部は大きく動き、躍動的に見えます。
図Cは右脚を跳ね上げるのではなく、支え自体を中心から左脚へ移動するようにコントロールしています。
その為、常に体を支え続けており、バランスが乱れる事がありません。
その代わり、頭部の動きは小さくなり躍動感は減るものの、動きが常に安定するので無重力的な軽やかさが出ます。
図BとCの動きのもう一つの違いは、Bはゆっくり動くと倒れそうになるので、ある程度動きが速くなります。
逆にCの動きは常にバランスを先行させているため倒れる事が無く、ゆっくりした動きも可能です(スピードに依存しない)。
このスピードの変化が有る無しも、見た目の印象にかなり影響していると思います。
Bの動きに近いのがダンサー達で、マイケルの動きはCの動きをかなり精密に行っているのだと思います。
それでマイケルの動きは浮いたような重さのないような独特な印象に感じ、ダンサーたちはジャンプするような躍動感のある動きに感じたのだと思います。
この動きは、武術の動きや日本舞踊にも共通していると思います。
動き出しを感じさせず、常に安定した滑らかで連続した動き。
自然に水が流れるような力みのない動き。
もしも腰に悪いところがあると、脚を上げるだけなのに「よいっしょっ」とジャンプするぐらいの労力を使う事になるでしょう。
歩く時や階段、坂道を上がる時も同じ。
自然に支えを移動させることで楽に上る、楽に歩く、楽に立つなどが可能になります。
私が合気道をやるときは、支えの位置を相手の力が掛かってきている位置に移動させます。
するとそこ以外の体の部分が自由になり、自然と重心へ向かって吸い寄せられるように動き、結果相手の力に影響されず動くことが出来ます。
相手との関係によって支えの位置を換えるわけです。
体の中心を考えるとき、固定された中心を考えるのではなく、いつでも移動できる支えの軸をイメージするのが良いように思います。
(2015年掲載)2022.04更正