この方は、約7か月前から左上半身にシビレ感が出るようになりました。
症状が始まった経緯を聞くと、背中を痛めた時に行った治療院で施術を受けてからだとおっしゃいます。
しばらくして、しびれの範囲は少し小さくなったようですが、今も左肩周辺にはシビレが残っています。
シビレは、常にあるわけではありません。
腕を突いて支える姿勢、自転車のハンドルを握っているような姿勢で出やすいそうです。
そういった姿勢の時に、不意にシビレて来て、でもストレッチすると治るそうです。
シビレの出る時間は1回数秒ぐらいで、発生頻度は日に数回です。
また、左首筋には突っ張った感じがあり、歯ぎしりと舌の力を上手く抜けない感じがあるそうです。
施術の前に色々と検査をします。
症状の再現や増強を調べるのですが、どうもシビレが再現しません。
シビレの切っ掛けになったと言う施術は、どんな施術だったのでしょうか?
とても気になりますが、ご本人もよく覚えていないようです。
そもそもシビレの発生原因は、別にあったのかも知れませんし、本人が具体的に覚えていないので、ここからのヒントは諦めました。
検査の中で見つかったのは、左肩周辺の複数の筋肉の緊張。
細かく言うと、上腕骨及び肩甲骨と鎖骨や上部肋骨を含む領域の緊張。
さらに、頸椎2番と3番の左側に飛び出した部分があり、左首筋に緊張が出ています。
もう一つ、頸椎1番の前側(のど側)にも緊張があります。
頸椎2番と3番の左側への突出は、本人も自覚がありました。
ただ、何年も前から気になっていたと言うので、今回の症状が出る前からのものかも知れません。
施術は週に一回のペースで始めました。
最初は、検査で見つかった部分の筋緊張を緩めることに重点を置きました。
施術は順調に進み、筋緊張の範囲がどんどん少なくなっているにもかかわらず、シビレに大きな変化が出ません。
一時的にシビレが増した時もあります。
どうも、筋肉の緊張(機能的)だけではない力が働いているようです。
緊張は、主に筋肉によって作られますが、筋肉の緊張が取れない(緊張のロック)状態が長く続くと、次第に筋膜や靭帯などの組織に、癒着が発生します。
この癒着の緊張(構造的)も、症状の原因になります。
癒着の緊張と、筋肉の緊張が重なった場合は、先に筋肉のロックを取り緩めてから、癒着を緩めて行きます。
このかたも、首周辺の筋肉のロックが取れてくると、その下に癒着による緊張が見えて来ました。
癒着は、頸椎1番の前側(のど側)と、後頭部からのどへ向けて、斜めに走っています。
4回目の施術から、癒着を緩める事を主軸に施術をすすめました。
癒着による緊張の場合、筋肉の緊張と違い、緊張の方向が蜘蛛の巣のように縦横無尽に走っています。
また、施術後も再癒着を繰り返すので、緩めるのもそれを維持するのも、手間と時間がかかります。
再癒着で5~6割は戻ってしまうことが多いので。
この方の場合、再癒着が意外と少なく、順調に癒着からの回復が進みました。
4回目の施術後から、首が楽になり始め、次第に頸椎の左突出が減少してくると、7回目の施術後からは、シビレの顕著な減少が始まりました。
頸椎の左突出は、緩めては戻りを繰り返していたのですが、この戻りがだんだん小さくなって来るのに合わせて、左腕のシビレも無くなってきました。
その後、本人の希望もあり、骨盤周辺のゆがみや下肢の緊張、背中の硬さなど、他の気になるところも施術をしながら、シビレの再発がないか観察していたのですが、もう大丈夫のようです。
左腕の状態は良好のようで、頸椎に再融着の心配は、もうないと判断しました。
なかなか改善の兆しの現れない症例の為、ここには書ききれていませんが、随分試行錯誤を繰り返しました。
なんとか改善までこぎつけてホッとしています。
癒着が原因の場合、完全に癒着を取り除けるのかと言われると、正直答えはノーです。
どんなに頑張っても、必ず少しは残ると考えています。
傷跡のように。
しかし、特別な運動や身体感覚が必要な人にとっては、些細な引っ掛かりでもポテンシャルに影響するかもしれませんが、ほとんどの人の日常生活に支障をきたさないレベルまでであれは、問題なく回復すると思います。
若いスポーツをやっている方たちには必ず言うのですが、とにかくケガを避ける事。
ケガをするような練習方法をとらない事。
治るたびに強くなると言うのは都市伝説のようなものです。
実際は、ケガをするたびに減点されていきます。
元々100点だった体が、ケガするたびに少しずつ減点され、90点→80点→と終いには使い物にならないところまで、点数が落ちたら大変ですよ。って。
2021/1/11作成(2021.09更新)