骨がズレる。よく聞く言葉だと思います。
「骨盤のズレ」や「背骨のズレ」などと言われるものです。
そして、ズレた骨を押し込めば治ると思っているかたも多いようです。
この考えは、患者さん側だけではなく、施術者の側にもあるようです。
骨がズレる? それをはめる?
まるでプラモデルやロボットのような、そんな話が本当にあるのでしょうか。
理科室の骨格模型(全身)を見たことがあるでしょうか。
骨と骨とが繋がった部分(関節)は、針金で繋いであったと思います。
何故なら、そうしないとバラバラになってしまうからです。
関節の構造は骨と骨とが隣り合って並んでいるだけで、プラモデルのジョイント部分のようにカチっとハマっているわけではありません。
ここを意外と勘違いしてしまっている人が多くいるようです。
もし関節がカチッとハマるように作られていたら、滑らかな動作は難しくなり、各関節には過剰な負荷がかかり、損傷や痛みを招くことになります。
骨格模型の場合、針金で骨と骨を繋いでいるのですが、人体の場合は骨と骨とをじん帯や筋肉、皮膚や脂肪などを使って関節を繋いでいます。
この関節を繋いでいる組織の中で、自在に形を変える(意識して)ことが出来るのは筋肉だけです。
ある筋肉に通常以上の緊張命令が出され、それが解除できなくなると、その筋肉は短くなったままになり普通には伸ばすことが出来ません。
その結果関節の機能は低下し、可動域の減少や運動軌道の異常などが起こります。
この現象が「関節のズレ」の正体であり、その事により見た目の姿勢の歪みや感覚の左右差などが引き起こされます。
ここで重要なポイントは、そのズレを起こしているのが骨格構造ではなく、筋肉を主にした軟部組織であると言う事です。
骨格構造がズレているのなら、エイッと押し込めが直るかもしれません。
しかし、筋肉のコントロールに狂いが出ているのですから、このコントロールを正常にしない限りこのズレは直らないでしょう。
筋肉へ命令を出しているのは、「脳」です。
脳にある大脳皮質運動野という部分。
この命令は脊髄を伝わり筋肉へ届き、その結果、筋肉に収縮が起きます。
筋肉は収縮した後に、詳しい事後報告を脳へと送り返します。
どれくらいの強さで、どれくらいの時間収縮したかなどです。
このやり取りが非常に重要で、脳は自分が出した命令に対する結果を、筋肉から答えとしてもらうことで、正しく制御できたかどうかを知ります。
例えば強く収縮しすぎた場合は、次の命令で少し力を抜くようにします。
めまぐるしいやり取りが、高速で常に行われているのです。
この「筋肉―脳」のやり取りに不具合が起きることが、多くの不調の原因になっています。
「筋肉―脳」のやり取りに不具合が出た結果、ゆがみを起こすのです。
どうやって「脳―筋肉」間のやり取り(脳神経系)にアプローチするか。
多くの人が考えてきた結果、様々なアプローチ方法(手技療法・流派)が生まれました。
各療法には、それぞれ独自の考えや方法があり、その有効性については議論の必要がありますが、どのような方法でも、結果として「脳―筋肉」間のやり取り(脳神経系)にうまくアプローチすることが出来れば、その療法は良い結果を招く事でしょう。
例えば、本人は骨の構造的なズレをエイっ!とはめ込んだつもりで施術をしたとしても、その過程で偶然、筋肉や脳神経系にアプローチ出来ていれば、施術は良い結果が現われるでしょう。
しかし、人の身体がどのように制御され、どのように維持されているのかをよく考えず、見た目の歪みに目を奪われ、それを力ずくで動かそうと考えれば、いつか人の体を壊すことになりかねません。
更には、施術者としてこのような無理な力の使い方をしていると、その負荷は自分の体にも帰ってくるため、いずれ施術者自身の体を壊すことにもなると思います。
2015年掲載(2021.09更正)